鱒幸竿誕生のいきさつ。

禁漁期に入ったのでこのタイミングで、と具合の悪かった所の手術入院をしており、病室で暇に任せてつらつらとこんな文章を打ってる次第です。


この遊びをやっている者なら誰もが(私もそうでした)いつかは優雅に竹竿で釣りがしてみたい、と思わずにはいられません。

サラリーマンだった私も限られた小遣いで竹竿を手に入れようと、オークションの中古品や格安品を買ったり、ブランク品からの半自作をしてみたりという事をしました。しかし納得の1本にはなかなか出会えませんでした。

そんな中で粗悪品を掴まされてしまったり、期待していたアクションとかけ離れていたり、と結局ずいぶん遠回りして、高い授業料を払ってしまいました。(十数本買いましたねえ)

しかもそれら多くのロッドの半分以上が短期間で折れてしまいました。(バンブーロッドの扱いが分かっていなかったためかもしれませんが)


この試行錯誤の時期に感じたのは、外国製のロッドは対象魚の平均サイズや釣り場環境の違いから、例え#3指定であっても、日本の渓流でイワナやヤマメを釣るには調子が強すぎて釣り味がいまいちだということです。これはカーボンロッドでも同じですね。また多くがテーパーデザインに弱点があったり、製法に問題があったりで、特定箇所で折れやすいということもわかりました。

日本のビルダーのロッドも欧米のロッドのテーパーをお手本にしているケースが多いと思われます。ましてやアマチュアの場合はほとんどがアメリカ製有名ロッド(テーパーの数値データーがネット上に公開されている)のテーパーで作成しているでしょう。ですから多くのロッドのアクションは僕にとっていまひとつ満足のいかないものだったわけです。


最終的に僕が「いいな」と思えたのは故中村羽舟氏の羽舟竿でした。軽くしなやかで腕からラインまで繋がったような一体感が感じられます。そしてキャストフィールも滑らかで何と言ったらいいか・・・「官能的」です。1本15万と高いので僕は2本しか持っていませんが、たくさん注文しているコアなファンもいらっしゃった様です。


桐生の工房にたびたびおじゃましましたが、毎回お話し好きな羽舟さんは竿の相談に乗ってくれたり羽舟竿の制作方法を楽しそうに熱心にお話しくださるものですから、あれこれ教わっているうちに、元々モノ作りが好きだった僕は無性に、自分でも竹竿をイチから作ってみたくなりました。

羽舟さんは、竹選びから始まって、羽舟竿の制作方法を細かな部分まで、詳しく実演を交えながら教えてくださいました。そのご教授があったからこそ僕はバンブーロッドを作ることができたのだと思っています。


ただし羽舟さんからは最後にこう忠告されました。「バンブーロッド作りを仕事にしようなんて思わない方がいいよ。それで食べていける人はごく一部だから。趣味の範囲にしておきなさいね」。

僕もその頃はプロになろうとは全く考えていなかったのですが・・・


そんなきっかけで作り始めた鱒幸竿なので、制作方法はもちろん羽舟さんをお手本にしています。一般的なバンブーロッドの製法とはちょっと違う部分もあったりします。

しかし、ロッドアクションのカギとなるロッドテーパーは、鱒幸竿と羽舟竿とは違います。その部分は釣りキチの自分が求める『日本の渓流のための自分にとって理想のフライロッド』を追求しています。テーパー数値は竿の個性を決める心臓部ですから、僕は羽舟さんに聞いたりしませんでした。(一応、参考までに手持ちの竿はマイクロメーターで測らせてもらいましたけどねw)それはあくまで個々のビルダーが自分で考え、熟成していくべきものと思っています。

素材は、日本の渓魚には日本の真竹が最もマッチしていると思います。これは羽舟さんも同意見です。羽舟竿の独特のフィーリングは素材によるところも大きいと思います。


元々自分が一番いいと思ったのが羽舟竿でしたし、僕が作る竿は羽舟竿に似ているかもしれません。でも僕は羽舟竿のコピーを作りたいわけではありません。羽舟竿も使っていると不満な点や改良の余地が見えてきます。自分ならこうしたいという思いも出てきました。

外見、コスメは自分が好きな『和』のデザインを意識しています(竹という日本的・東洋的な自然素材で作っていますし)。シンプルですっきりしていて、余計な自己主張はしない、周りの自然や渓魚と馴染む、撮影時にヤマメやイワナを引き立てるようなデザインにしています。 渋さとかわびさびの味を出したいなと。

文字入れが漢字縦書きなのは、最初に喜楽のロッドでそういうのを見て以来「イイネ!」と思っていたんです。漢字は海外の方から見ると「cool!」だそうですね。私もそう思います。最初に雑誌で羽舟竿を知った時、興味を持ったのも、漢字のインスクリプションだったからかもしれませんw


素材の真竹は羽舟さんと同じく群馬県赤城山麓から良い竹林を探し、膨大な数の竹の中から「これは!」というものを厳選して採取しています。

羽舟さんは場所を話してくれたのですが、メモを取っていなかったので、残念なことに後で思い出せなくなってしまいました。川のポイントを人に教わるのはしゃくなのと同じで、改めて聞く気にもならず・・・でも僕のお世話になっている竹林もいい竹が採れます。


竹竿作りは奥が深く、同じ数値で作っても使う竹次第でぜんぜんアクションの違った竿になってしまいます。狙い通りの竿を作るには原料竹の選別も重要です。


バンブーロッドなら、テーパー設計と原料竹の使い分け、火入れの具合等を組み合わせて、1本1本、使い手の要望に合った様々な性格の竿を作ることができます。

 

作り手としては、試作、トライ&エラーも1本単位で、失敗を怖れず挑戦できるので改良もしやすい。


そのへんがマスプロ製品であるカーボンロッドやグラスロッドとの大きな違いですね。 


竹竿ならオーダーメイドで、自分だけの、世界でただ一本のスペシャルロッドを手に入れることもできます。そんな点も竹竿の大きな魅力です。

「竹竿としては低価格ですね」との声を時々いただきます。

確かに妥当なコスト計算や手間賃を考えたら、本来は2倍以上になるかもしれません。しかしそんな高価な竿では、誰もが使える物になりません。 私の竿作りは道楽でやっているようなもので、だからこそできる値段なのかもしれません(決して安かろう悪かろうではないと思っています。丁寧に作ってますし、パーツや素材はいいものを使ってます)

価格設定については、カーボンロッドの中級クラス程度と考えました。 気軽にメインロッドとして使って欲しいとの思いからです。

カーボンロッドでもトップモデルでは10万しますが、満足度から言ったら明らかにバンブーロッドの方が上だと思います。 川で会ったフライマンの手にしているロッドがバンブーだと『オッ!』となりますもんw 写真写りもいいですし。


「バンブーロッドは1本持っているが、もったいなくて使えない」という話をよく聞きます。作者としては残念な事だろうと思います。

竿は川で使って魚を釣ってこそナンボです。竹竿の魅力、味わいを感じている者として、より多くの仲間に竹竿の良さを知ってもらい、竹竿を使ってもらいたいという気持ちです。


フライロッドは1本あれば十分というものではありません。誰しも様々なシチュエーションに合わせて複数のスペックの竿を欲しくなるものです。手頃な値段の竿ならそれも可能でしょう。


「もったいない」の理由として高価であるほかにもう一つ、竹竿は折れやすいと思われているのではないかと思います。

自分で作った竿を実際にとことん使い込んでみたから自信を持って言えますが、ちゃんと作った竹竿は丈夫です。普通に使っていて折れることはありません。メインの竿として遠慮なく使ってもらいたいです。ただし「正しい使い方をすれば」です。私なりの「使用上の注意」をHP、informationの「バンブーロッドの取り扱い説明」で紹介していますので参考にしてください。

蛇足ですが、鱒幸竿が折れたのは一回だけ。握ったまま転んで全体重を掛けてしまった時だけです。その時はグリップの先の所で折れました。シリアルNo.1のロッドですが、修理して今でも現役で活躍しています。竹竿は修理しやすいのも良い点です。


竹竿を使う人が増えること、それは同時にこれまでとは違った価値観を持った釣り人が増える事を意味します。

従来の釣り人は、より多く、より大きくという漁獲第一主義が主流でした。しかしそんな遊び方では、自然繁殖のいい魚は絶滅し渓流の釣り場環境は破綻してしまうでしょう。渓流の再生産能力は日本の釣り人口に対して低すぎるのです。

これからは一尾の魚を釣って放すまでの過程を、いかにスマートに、恰好良く、お洒落に、より味わい深く、行うか。そして魚を釣る行為のみでなくその周辺の物事まで含めて楽しむ。そこに重きを置くという価値観、、、そういう楽しみ方こそ、この道楽にはふさわしいものだと思うのです。


「釣れればいい」ならわざわざフライなんて面倒なやり方をしないでも餌で釣れば手っ取り早いのに『わざわざ』こんな面倒なやり方で魚を釣ろうとしている我々フライマンは、新しい価値観を持った釣り人です。 ですから『わざわざ』竹竿なんかを使う意味、も理解していただけると思います。


いまお持ちの竹竿は、『とっておき』にしないで、ぜひ第一線で活躍させてあげてください。

そして、まだ竹竿に手を出していない方は・・・鱒幸竿はいかがでしょうか(笑)


2017.10.07 のブログより転載

2021.03.06 加筆

羽舟さんの工房前にて。採ってきた竹を検分してもらっているところ。

鱒幸

フライフィッシングで日本の渓魚を味わい深く釣るための竹竿、鱒幸竿のページです。

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